Aus der Tiefen rufe ich,Herr,zu dir BWV131

(プログラムノートより)

バッハ/カンタータ第131番『深き淵より、主よ、われ汝に呼ばわる』 BWV131

 このカンタータはバッハの最初期のカンタータのひとつで、ミュールハウゼン時代の作品である。使用機会は不明であるが、1707年5月にミュールハウゼンで大火があり、 7月に聖マリア教会で行われた悔い改めの礼拝において、このカンタータが演奏されたとするのが定説で

ある。作曲は聖マリア教会の牧師G. Ch. アイルマルの求めに応じてなされ、テキストも彼の編纂ないし提案によるものと思われる。

 テキストはルター訳の詩編130編を中心とし、そこにB. リンクヴァルトの詩編38編に基づくコラールを配して構成されている。詩編130編は「7つの悔悛詩編」のひとつとして知られるもので、 『深い苦悩の底において人は初めて神の声を聞くことができ、初めて神に呼びかける

ことができる』という、ルターの福音主義の根幹をなす思想が表現されている。

 バッハは作曲にあたり、ルター派教会音楽の伝統に学び、モテット風の構成の中に、前奏曲とフーガの形式や、定旋律コラールの手法を組みいれた。全5曲は第3曲を中心に第2曲と第4曲、第1曲と第5曲が対応するようにシンメトリックに配列されている。これは、十字架と

キリスト(×)の象徴で、バッハの初期のカンタータによくみられるものである。しかし、バッハはこれによって有機的な多楽章形式を組みあげようとするのではなく、短い部分を並列的に並べながら、それぞれのテキストを、性格的に深く掘り下げて作曲している。そしてこの構成の

上に、このカンタータのテーマである罪(Sünde)と贖い(Erlösung)の対照が、印象深くくりひろげられているのである。