Christus factus est

キリストはおのれを低くして(ブルックナー)


(Program noteより)

 ドイツ・ロマン派を代表するアントン・ブルックナー(1824-1896)は、交響曲に著名な作品を残した作曲家として知られているが、80曲以上の合唱曲も書いている。その源となったのは、母親が合唱を好んでいたこと、父から受けた音楽教育、そして、両親と共に通った教会に鳴り響いていたオルガンと合唱であった。13歳の時、父親は昇天し、ブルックナーは聖フローリアン修道院において生涯の忠誠心を習い、寄宿舎に入り聖歌隊員を務めた。後にここが彼の永眠の地となる。

 ブルックナーは少年時代すでにミサのオルガンを担当していた。そして修道院においてもオルガン奏法に顕著な才能を示し、ヴァイオリン、ピアノ、通奏低音を学んでいった。その後、オーストリアの地方の助教員、聖フローリアン修道院のオルガン奏音、リンツ人聖常のオルガン奏者を経て、1868年にはウィーン音楽院の教授となった。前述のとおり彼は80曲余の合唱曲を書いているが、無伴奏合唱曲の中で演奏される作品は限られている。それもほとんどが宗教曲となっている。

 「キリストはおのれを低くして」は1884年の作品で、同年119日、ウィーンにおいてヘ短調ミサWAB28のグラドゥアーレとして作曲者の指揮で初演されている。大変劇的な作品で、ブルックナーの宗教的感情が音楽的に最も美しい表現を得た例ということができよう。このテキストは枝の主日のミサの昇階唱で歌われる。